朱里日記

❁小さな自叙伝からはじまる魂の冒険記❁

ソウルメイト6

副料理長のTさんは、わたしの魂目線をいちばん刺激する素晴らしい逸材だった。

彼もまたJくんと途中まで同様に、高校では進学校を卒業し、当たり前に大学へと進学する人間が多い中、自ら大学へ行きたいと思わないというシンプルのなかのど真ん中のシンプルな理由で料理の世界へ飛び込んだ人だった。 

わたしがあの店に来た時、すでに6年目を迎えていたTさんは、ホールのKさん同様ムードメーカーで、常に店の雰囲気を明るく楽しくしてくれるなくてはならない大事な存在だった。 年こそ若かったけど、結婚もしていて、こどももいた彼は、どちらかというと、ムードメーカーを地でいくKさんとはまた違うタイプで、あくまでも、キッチンの縦社会に準じた上で、役割を果たしていたようなところがあった。

芸人が普段はまったく喋らないおとなしい人が多いのと一緒で、素の彼はどこか普段の明るさとは真逆な一面を持っていることを私は時折垣間見ていた。(本人いちばんそれ言わないでのとこですよね、、) 


Tさんの料理はダイナミックで、フライパンを煽る時もものすごく大胆だった。 彼の作る料理の味はまさにそのまま、投げたボールが真っ直ぐミットに飛び込んできたかのようなスパっと切れのいい味わいだった。


ある日の営業日、わたしは料理の出てくるデシャップと呼ばれる台のすぐ前に配置されるエキスパという役割をしていた。その日の最後の料理がアップされるとき、Tさんが料理の乗ったお皿を差し出しながら元気よく言った『はい!おしまい!』という言葉に何故かものすごく感動してしまった。 走り抜けてやりきった波動がダイレクトにきたんだと思う。

Tさんは、料理をしているときがどんな時より輝いていて、それは、彼が唯一無心になれる時だったからなんじゃないかと感じていた。

土日の営業前の仕込み時間は、キッチン内で好きな音楽を流してみんなリラックスして料理をしていたのだが、あるとき、Tさんのスマホがシャッフル再生をしたら、連続で、わたしがその頃大好きだったBUMP OF CHICHENばかりを流したもんだから、『これSiriじゃなくてShuriなんじゃない?』なんてくだらないダジャレを言われて笑い合ったことが懐かしい。


以下、わたしのみた世界の話


Tさんは背中にものすごく大きく真っ青な綺麗な翼を生やしていた。 その翼をつかえば、いつだって自由自在に好きな場所へひとっ飛びできる魔法のアイテムを授けられていたのに、それを本当は使うことをどこかで望む彼はたしかに存在していたのに、今生は使わないことを決心していた。 誰にも気づかれないようにキレイに背中にしまって、広げることは決して選ばない。そう、決意していた。

わたしは彼から受け取ったイメージのようなものを冗談交じりに彼に伝えた。それを聞いて、『へぇ~』って、あまり感心なさそうに彼はつぶやいた。

Tさんのエピソードはいろいろ出てくる。

あるとき、可愛い娘の写真を見せてくれた彼にわたしは「Tさんは〇〇ちゃんから愛をもらってるんだね。」と伝えた時があった。 それを聞いた彼が不思議そうに『僕があげてるんじゃなくて?』とすぐに聞き返してきた。

「同じことだよ。」とわたしは笑った。


わたしは彼に出会って、人はやはり全てを一旦忘れてから生まれてくるという仮説は面白いなぁ~と、さらに興味が深まった。

いまこの瞬間にしかいない自分をTさんは生きていて、何かを決めて生まれてきていたとしても、そんなもの、本人が知りたい、見つけたい、思い出したいと思わない限り、なんの意味ももたないし、なんの価値もないのかもしれない。 

それを証明してくれてる気がしたのだ。  


わたしはただ、それを知りたいし、見つけたいし、思い出したい、と思ってるだけなんだなぁーと、あらためて、自分の生きる道を突き進むしかないことを思い知ったのである。 

Tさんはお別れのとき、わたしのことを今まで出会った人の中で1、2を争うスピリチュアルな人だった!と言って、笑って握手をした。


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Uちゃん(男)のこと

彼もまた変わった経歴の持ち主で、料理の世界へは人生修行の一貫で入ってきたようなところがあった。

誰に対しても優しくて、平等で、礼儀正しい好青年だったが、意外にも自信家で、根性のある一面を持っていた。 

料理長からは、コツコツ頑張る姿勢が認められ、可愛がられていたように思う。 Uちゃんは20代後半に差し掛かる年齢だったが、自分がこの人生で経験できることはどれだけあるだろう?ということを常に意識していて、料理をひと通り自分が納得できるところまでやれたら、違うことをしてみたい!という野望を抱いているようだった。 こういう人ってめずらしいなぁ~と私は思っていた。 大抵の男の人は、地に足をつけて、ひとつの仕事をやり続けていくか、どうしても肌に合わずに職を転々とせざるを得ないことになるか、だと思っていたのに、Uちゃんの場合、全て自分から挑戦して勝ち取って、次へ進むという考え方だったから。 例えるなら、片岡鶴太郎タイプだろうか? あの人も芸人からボクサーから絵描きからヨガの達人?までとにかくやってみたいと思ったことをある一定期間集中して自分のものにしている印象がある。 頑張ればいろいろやっても、けっこうすごいところまで行けるよという、いいお手本のような人だと思う。 

果たしてUちゃんがどこまで自身の人生の幅を広げていけるかは彼次第だが、なんとなく、ポジティブで自己肯定感がしっかりある彼なら、きっとそれほど幅が広げられなかったとしても幸せに生きていくことができるだろうな、と、安心して見守れる。

Uちゃんがあの時、あのお店にいてくれて、わたしは本当に感謝している。もしかしたら、いちばん近くにいて安心感をもらえたのはUちゃんだったのかもしれない。初心者のわたしにもアドバイスや、フォローのことばをいつもかけてくれてたし、緊張感でガチガチの心をほぐしてくれたのは、Uちゃんの朗らかな人柄だった。


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ある日のお野菜🍠🥕🥔