朱里日記

❁小さな自叙伝からはじまる魂の冒険記❁

リスタート!

前回のつづきになる


2015年の秋から、わたしは離婚に向けて動き出した。就職活動などしたことはなく、大雑把な性格から、転職サイト内で、なんとなく直感で目に止まった都内の飲食店の面接に早速行くことにした。

その時に面接してくれたその会社の部長があまりに感じが良く、まるで、あの親しみを一切感じられなかった血の繋がりのある親戚よりもよっぽど昔から知っていたかのような、不思議な安心感を感じ、さらに、その方も離婚を経験されており、再婚後授かったまだ幼い子どもたちの子育てに積極的に関わっているお父さんで、わたしの離婚に向けて前向きな就職への姿勢を応援してくれ、簡単にわたしの就職は決まっていった。

12月からその会社のG座の一等地にあった店舗で働き出したわたしは、半年前には想像だにしなかった場所に自分が立っていることに、あまりにも現実味がなく、しばらくは慣れない仕事に対するストレスよりも新しい世界への好奇心の方が勝っていたくらいだった。

12月は一年の中でいちばんの繁忙期だったため、連日予約でいっぱいで、わたしは自分が何をしているか半ば分からない状態で働いていた気がする。

ある日、見るからにとんでもない金持ちと思われる家族のお見送りのため店舗の入っていた8階からエレベーターで一緒に1階まで降り、お客様がタクシーに乗り込み車が発車するのを頭を下げ続け、見届けた。 

その自分を上から眺めてる自分が、''すごい面白い経験してるじゃん!''と、可笑しそうに言う声が聞こえた気がしたりしたのだった。

(はい!もうヤバい!)


その店にはバーカウンターがあり、わたしと同い年の女性の先輩がバーを担当する日が多く、その人が優雅にお客様とお話しする横で、まるで着させられた白シャツにネクタイ、サロン姿のわたしは、瞬く間に溜まっていくシャルドネグラスや、ボルドーグラスなどの吹き上げ作業に必死な形相で追われる日々を過ごした。合間を見て、働いてる人たちをチラ見しては、まるでレストランが舞台のドラマを見ているような気分になり、実際休憩中に、息付く暇もなく何時間もぶっ通しで走り回っていた彼等がひとときの休息をタバコを吸いながら過ごしてる横で、ひとりワクワクしながら、「まるでドラマを見ているようです!」と目をキラキラさせながら言ったのだから、わたしは相当な変わり者、いや、ヤバいのが入ってきちゃったなぁ~と思われていたことだろう。


それくらいそこは、それまでわたしが生きていた世界とは異次元の世界だった。


少しずつ何をやっているのかが見えてきて、少しずつ冷静に恐怖に襲われ出した。 

わたしは本当に何もできなかったのだ。  

救いになったのはこの性格で、心底働いてる人たちがカッコよく輝いて見えて、わたしは店長から料理長からバイトの子まで分け隔てなく、それを素直に相手に伝えたことで、敵をつくらず、各々の先輩たちから仕事を教えて貰えた。そして彼等はわたしが何もできないことをすぐに理解し、寛大に見守ってもくれた 。


本当に今思い返すと、よくあんなにも何もできない人間を社員として雇ってくれたもんだと、あの会社のチャレンジ精神には目を見張るものがあるが、わたしは独自の視点から勝手に言うなれば、飲食店はチームプレーだと思う。ひとりひとりの最低限のスキルはそれ相応のお店であればもちろん必要不可欠だとは思うが(わたしがいた所はそういう所でした…)できない人間をどう育てるかというよりは、どう活かすかに注力した方が早いんじゃないかな?などと思う。 

だって教える時間も覚える時間も確保することが難しいなら、いっそのこと、その人が元々持ち合わせてる天性の才能をすぐに発揮してもらった方がチームとしてはうまくまわる気がする。パズルのピースがぴたっとはまるチームは、無限の可能性を発揮してすごい力が拡大するイメージだ 。いちばんの理想はひとりひとりのスキルが高くて、ひとりひとりの個性が活かし合えることだとは思うが、それはなかなか難しいので、次点として、できないひとりをみんなでバックアップしてチームを面白くしていくやり方はどうだろう?


ん?一体わたしはなぜそんなことを言い出したのだろう?あ、そうだ ちょっと内容が薄いから肉付けしたかったんだった。これはまあ、戯言ですので聞き流してください。


ここの店舗をひと月で離れたわたしは、奇跡の出会いの連続を果たすG座のもう一店舗へと華麗に異動を果たしたのであった(ここの店舗にわたしの需要はなかった…完)


つづく


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導かれるままに